来るべきアレフバー の世界

ペルシア文学の余白=世界文学の中心

『ヒトラーは私が殺した』(H・モアイイェリーネジャード著)

 

 

去年、ネットで見て面白そうだと思ったので、2月にイランに行ったとき買ってきたもの。

この夏に通勤電車の中で読了。

 

I Killed Adolf Hitler

ヒトラーは私が殺した

  • 作者:ハーディー・モアイイェリーネジャード著
  • 出版社/メーカー:ヒーラー(ゴグヌース出版社グループ)
  • 発売日: 2016夏
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あらすじ

「ぼく」(ハミード・ヌールチヤーン)は、マスコミにつとめる独身のアラサー男性で、あるとき、祖父(サーデグ・ヌールチヤーン)から秘密の話を打ち明けられる。それは、若き日の祖父と同僚のレザー・カームラーンプール氏が、イランのカスピ海沿岸部の町ラシュトで体験した出来事だった。

 

一般に、ヒトラーは大戦末期に自殺したということになっている一方、逃亡説も存在する。

祖父によれば、ヒトラーは自殺しておらず、ソ連軍に捕らえられ、ラシュトのレストランの地下室で密かに生き続けていた。

 

「わしが、ヒトラーを殺したんだ」

 

カームラーンプール氏とラシュトへ向かう「ぼく」。祖父がヒトラーを見たというレストランの地下室にあったのは、半世紀前の恐怖が今も続いているかのような空気と、どこからか漂ってくる、無数の死体が放つ危険な臭いであった。

 

あのとき殺されたのは、本当にヒトラーだったのか?怪しい美貌を放つカームラーン氏の娘ロザーは、ヒトラーの血を引く孫なのか?

 

謎を残しながらも、祖父から遺産を受け継いだ「ぼく」は、仕事を辞めて留学しようと決意する。その頃、祖父たちと一緒に行動したらしいドイツ在住のイラン人男性が、こんな本を出していた。

 

ヒトラーは、私が殺した』

 

「ぼく」とフランス在住の従姉妹のジャーレ、ヒトラーの孫娘かもしれないロザーは、その著者に会いに行く・・・

 

感想

112ページと短い小説である。ミステリーという触れ込みで期待して読んだのだが、緻密な謎解きや仕掛けなどはなく、ミステリーとしての楽しさは今ひとつ。

 

冒頭で、「ぼく」は実際に放映されたヒトラー逃亡説のドキュメンタリー番組に触れており、アイデア一つで書ききったという感は拭えないが、「ぼく」とジャーナリストである著者とが重なり合っており、本作の最後でもこの話を本にするようジャーレが注文していることから、もしかすると著者の祖父か誰か、本当にそんなことを言っていた人がいたのかも知れない。

 

イランは砂漠とか思っている人にはピンと来ないかも知れないが、ロシアやコーカサスとの繋がりを考えるとあり得ない話ではない、という「もしかしたら」的な関心でウケたのではないか、と思わせる1冊であった。

 

本作がデビュー作となる著者モアイイェリーネジャード氏は、最近『土地なき風たちの団体』というタイトルの詩集も出版したらしい。■

 

今週のお題「読書の秋」

 

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