来るべきアレフバー の世界

イラン×文学×図書館=

11月に読んだ本:番外編

いただいた本や新しく入手した本を紹介するつもりが、積読の山が高くなる一方の今日この頃です。

 

「自称Middle East Librarian」としては、新しく入手した本についても、逐次紹介していかなければと思っています。ネットで探せば新刊情報は出てきますが、積極的に探さないと、知られることもないまま埋もれていく本が多いですからね。

  

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国際十進分類法の発案者でもあった書誌学者ポール・オトレ。吾輩の理想の仕事場。

ビブリオグラファー的な立場からいうと、全部読んで書評や感想を書くというのは難しいのですが、ざっと見て書誌的な情報を確認するだけでも、色んなことがわかります。版元のサイトやネット書店の情報だけでは分からないことって結構あるんですよ。この本は過去に出た本のリプリントなのか、改訂版なのか、研究に使えそうかどうか、とかですね。

 

これを潜在的な読者に伝えなければいけないという小さな使命感があります。

 

使命感があります・・・

 

と、言ってるそばから番外編。これもいただいた本の言えるのかも知れませんが。今週、子どもが通う公立小学校でこんな冊子が配られたそうな。

 

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 『ハムソベ大スキ!:知って納得!食品添加物』。作っているのは、日本ハム・ソーセージ工業協同組合公益社団法人日本食肉協議会が後援。

 

内容は、ハムやソーセージに含まれる食品添加物の安全性、必要性を強調し、ハムソベ(ハム、ソーセージ、ベーコンの頭文字から作られた総称)の摂取を推奨するもの。

 

最初に断っておくと、私は食品添加物に対して絶対反対という立場ではありません。インスタントラーメンとか好きだし、ソーセージもベーコンも、コンビーフも食べる。だから加工肉業界団体がこういう宣伝マンガを作ること自体を否定するつもりはありません。

 

しかし、これをハム屋が駅前とか道端で配るのならまだしも、公立の小学校の家庭科の授業で教師がこれを配り、授業中に読まされたというから呆れるほかありません。癒着を疑われてもしょうがないですね。

 

添加物について正しく教育するなら、その効果や利点、危険性を客観的・科学的に教えるべきであって、「ハムソベ大好き」、「作ろう食べよう!ハムソベ料理」などと謳う教材を使うのは学問とは言えません。批判的に読む、というのなら別ですが。

 

この本はあからさまに加工肉を食べろと言わないかわりに、マンガという媒体のレトリックを駆使して、添加物の負の側面を隠蔽することに注力しています。例えば、添加物の働きを「食品の味、香り、食感をよくする」、「品質を保ち、より安全にする」(p. 10)などと、使わないより使った方が良いかのような印象を与えていますが、これは倒錯した論理としか言いようがありません。食品添加物の多くは、味や香りや食感の悪いものを誤魔化し、新鮮でないものを新鮮であるかのように見せたり、通常なら腐ってしまう状態におかれたものを腐りにくくしたりするために使われるので、生の素材を使って自分で調理してその場で食べる上では、ほとんど必要がないものです。

 

低価格の加工食品ほど添加物を多く使っているのは、安い素材を使って工場で大量に生産し、より長い時間店頭におくことができ、コストを下げることができるからでしょう。メリットを受けるのは生産者、販売者で、消費者のメリットは小さい。安いから消費者にメリットがあるかのように見えても、低価格で手に入るのは値段相応のものでしかありません。イチゴ味のお菓子をどれだけ食べてもイチゴを食べたことにはならないし、味覚が狂っていくだけです。

 

また、肉の発色やボツリヌス菌の発生を抑えるために用いられる亜硝酸ナトリウムが、(肉の保存に用いられた岩塩に含まれていたことから)「もともと天然のもの」(p. 10)であると紹介し、あたかも天然素材であるかのような印象を与える一方で、それを大量に摂取すればどういうリスクがあるかについては一切説明がありません。加工肉を食べること自体に問題はなくても、多く食べるほど大腸癌になるリスクが高まるという国際がん研究機関の指摘もあります。この本では、そもそも肉を食べ過ぎればそれ自体が健康に悪いという論理で本質的な議論を避け、誤魔化しています。

 

また、リン酸塩を使わないハムが美味しくないかのような描写など、マンガの中では添加物の都合の良い面だけを強調し、その代わりに欄外の「まめちしき」で「リン酸塩をつかわないハムは、(中略)肉そのものの味わいがあります」などと補足するやり方など、姑息な印象操作としか言いようがない。子どもたちに強い印象を与えるのは絵のついたマンガのほうで、欄外の「まめちしき」でないことは明らかです。

 

昨今のアメリカ大統領選挙の大騒ぎをテレビで見るにつけ、アメリカはひでえ国だな、とか思っていましたが、もはや日本も「スーパーサイズ・ミー」的なディストピアになりつつあると言えますね。政治家は御為倒しの政策をでっち上げて自分の味方をする大企業に利益誘導し、学校教育は私企業や業界団体の草刈り場と化している。公共図書館が大量の砂糖の入ったコーヒーを売る場所になっても、給食が売れ残り食材や加工食品の処分場と化しても(学校給食は元々そういうものだったと言えるかも知れませんが)、誰にも止められない。

 

コロナ禍の影響で、ある種の食材が大量に余っているのかも知れませんが、このタイミングでこういう宣撫がされるというのは、今後給食に大量の「ハムソベ」が投入されることの前触れなのでしょうか。

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