来るべきアレフバー の世界

ペルシア文学の余白=世界文学の中心

テコンドー女子57kg級、二人のイラン人選手

オリンピックも残すところあと2日。私は夜中にテレビは観られないので、朝のニュースで結果を知るだけなのですが、毎日いろんな種目で日本人選手のメダル獲得のニュースがあって、端的にすごいと思います。この記事を書いている現在、日本は金メダルの獲得数で6位、メダル総数では5位。上位の国はアメリカ、イギリス、中国、ドイツ、ロシア・・・やはり最新の技術や情報を駆使してトレーニングできる大国のほうが有利なのでしょうか。

 

テレビの性格上(?)、メダルを取れなかった選手にはあまりスポットが当たらないし、まして負けた外国の選手たちのことはなかなか知ることができないのですが、それぞれに背負っているものがあることでしょう。

 

昨日の朝、出かける前にテレビを観ていたら、女子テコンドーの試合が放送されていました。戦っているのはモロッコとベルギーの選手でしたが、ベルギーの選手は背中にASEMANIの文字。イラン系を思わせる苗字です(画面の表示では「アセナニ」となっていましたが)。

 

テコンドーにはあまり関心がなかったのですが、一瞬の隙をつくハイキックのキレにちょっと興奮してしまいました。実況でも触れていましたが、ラヘレ・アセマニ選手はイランからベルギーに政治亡命した選手なんだとか。

 

www.youtube.com

 

ペルシア語風の発音ではラーヘレ・アーセマーニー。広州で開催されたアジア競技大会2010では、イランの女性選手として初めて決勝に進出。韓国に敗れ銀メダルを獲得します。イランでもトップレベルのテコンドー選手であった彼女は、2012年におばを頼ってベルギーに移住、自らテコンドーのナショナルチームの門を叩きます。政治亡命の申請をし、在留が認められますが、イラン国籍のままではヨーロッパ選手権や世界選手権には出場することができません。難民チームでのオリンピック出場を目指し、1月にイスタンブルで行われたヨーロッパ代表選考会で優勝、オリンピックの4月にベルギー国籍を取得し、ベルギー選手としてオリンピックに出場することになりました。

 

上の動画の中で、アセマニ選手はイランにいたら海外の大会に参加するのが難しい、と言っています。ベルギーに移住することで世界の選手たちと対戦する機会も増え、国籍を取得したことでベルギー人として世界大会に参加できるようになった。政治亡命の詳しい理由は分かりませんが、彼女にとってはスポーツのためであり、また亡命を受け入れたベルギー政府側も、彼女のテコンドーの実力を考慮したであろうことは、単なる想像ですが恐らくそうでしょう。

 

私が観た試合は敗者復活戦でしたが、その後、惜しくもエジプトのヘダヤ・ワフバ選手に敗れて銅メダルを逃します。

 

皮肉にも、同じく敗者復活戦から銅メダルを獲得した二人のうち、もう一人はイランのキーミヤー・アリーザーデ選手でした。

 

www.abc.net.au

 

www.presstv.ir

 

女子テコンドーでイラン初のオリンピック・メダリストということで、イラン国内でも大統領から祝福の言葉が贈られました。

 

こうなると、果たして亡命する必要があったのかと考えてしまいそうですが、そのとき、その人にはその選択肢しかなかった。歴史に「もしもあのとき」はあり得ません。勝負の世界はシビアで、だからこそ様々なドラマがある。

 

私が身をおいている世界では、人文学それ自体は基本的に競争とは無縁ですが、お金をもらうためにはポストの公募や科研費助成金の公募といった競争があります。

 

できることなら、頑張ってる人みんなに「金」をあげて欲しいものです・・・

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