随分前に訳しておいたものですが、ここに掲載します。
ハーディー・ホルサンディーは独りで風刺的な内容を語るスタイルの「スタンディング・コメディアン」で、イラン革命後、イギリスに亡命しました。その娘シャーピー(シャーパラク)・ホルサンディーも、英語のスタンディングコメディアンであり、亡命時の体験を描いた自伝も出しています。

A Beginner's Guide To Acting English
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故郷を失って生きることの苦しみから逃れるために、アルツハイマーになって死にたいというこの詩は、ユーモアに溢れながらも、その心境を思うと非常に切ない、泣かせる(最近、こればっかり)内容になっています。
ちなみに千三百○○年、というのはイラン暦ですので、西暦に換算すると19xx年、という感じで、全部20世紀のイランの出来事を言っているわけです。イラン現代史を読んだ人なら、共感できるかと思います。
アルツハイマーの詩
Alzheimer poem- Hadi khorsandi شعرالزایمر ازهادی خرسندی - YouTube
アルツハイマーになりたい
思い切り忘れて死にたいから
自分の状態や、どこにいるかも、
日付も、年齢も分からなくていい
記憶など長く続かない方がいい
歴史や数字が思い出されるから
千三百何(key)年、
葦(ney)がうめき声をあげて葦原から切り取られ
千三百幾つ(chand)の年、
私たちの唇から微笑みが失われたか
年を数で指すのはやめて
暗示や示唆で指すことにしよう
千三百「悲しみ(gham)」年、
私の運命の基本が整った(farāham)
千三百「痛み(dard)」年、
未来が私を呼んだ(seda kard)
あれは確か千三百「無(hich)」年、
曲がりくねった(pich)道を探した
覚えていたくない、千三百「空虚(pūch)」年に、
どんな希望を持って祖国を捨てて移住(kūch)したか
思い出したくない、何がどうなって
次々と災難が祖国を覆ったのか
どんなふうに、千三百「石油(naft)」年、
己の魂が体から出て行く(raft)のをこの目で見たか
富(ganj)の上で、国民は腹を空かしていた
千三百「苦痛(ranj)」年
何年に 国民はどん底(tah-e chāh)に堕ちたか
それは千三百「シャー(Shāh)」年
千三百「衰弱(degh)」年
どうしてモサッデグ(Mosaddegh)博士は追放されたのか?
千三百「力(zūr)」年
独裁の根拠が全て調和(jūr)した
千三百「無知(jahl)」年
国民を騙すのはいとも容易く(sahl)なった
千三百「風(bād)」年
私も通りで叫び声(dād)を上げた
千三百「宗教(dīn)」年
憎しみ(kīn)の政府は国に覆いをかぶせた
シェイフが私たちに勝利(pīrūz)したのは何年か
千三百・・・
シェイフが私たちに勝利(pīrūz)したのは何年か
千三百・・・
記憶喪失になって
アルツハイマーの世界で死を迎えたい
自分の手がかりもなくしてしまえば
自分の耕したものも思い出すまい
新月の現れたことも知らず
収穫の時期を思い出すこともない
もし楽園(jannat)というものが 全ての宗教が用いる嘘ならば
忘却こそが 本当の天国なのだ