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来るべきアレフバーの世界

ペルシア文学・イラン文化研究と図書館の話

ペゼシュクザード『わが叔父ナポレオン』

イーラジュ・ペゼシュクザードの小説『我が叔父ナポレオン(ナポレオンおじさん)Dāyījān Nāpole’on』(1973年)は、どういうわけか革命後のイランでは発禁になっている小説ですが(海賊版は容易に入手できる)、英訳は1996年に出版されて広く読まれています。

 

My Uncle Napoleon

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My Uncle Napoleon: A Novel (Modern Library Paperbacks)

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 イスラエルヘブライ語訳が出たということは以前の記事でもお伝えしました。

 

alefba.hatenadiary.jp

 

さて、この英語版の著者によるあとがきをみたら、泣かせることが書いてあったので紹介します。

(前略)

私が小説の主人公より少し年上だった頃、ある若い女性と恋に落ちたのだが、私たちの愛にはたくさんの障害があった。例えば、彼女の父親は、裕福で安定した家系の人間であり、平凡な家庭医の息子である私を蔑んでいた。当時の社会の伝統的な習わしでは、娘は父親の意志にのみ従うということになっており、それを上回る強制力は存在しない。しかし、これらの障壁にもかかわらず、私は望みを捨てなかった。私は一刻も早く彼女に相応しい人間となるために、医学の勉強を止めて法律を学んだ。そのほうが早く資格を得られたからだ。同時に、有名になれればと思い、書くことを始めた。私は彼女と一緒になることができると考えたが、私が若き弁護士として働き始め、作家としての名声を手に入れたとき、私の世界は突如として崩壊した。彼女の父親は、彼女を金持ちの商人の息子と結婚させたのだ。

それから私は最悪な日々を過ごした。すべてを忘れるため、外務省の試験を受けた。少し後、オーストラリアで、私はイラン大使館員として働くことになった。そのとき、私は自分の体験を小説にすることができると思った。しかし、数頁書いて、書くのをやめた。無意識に彼女に対する怒りや苦しみをぶちまけていることに気づいたからだ。実際には、彼女は社会的な因習に縛られていたのであって、彼女に罪があるわけではなく、恐らく私よりも不幸な日々を送っていたことだろう。次の任地であるスイスで、私はナポレオンおじさんの不条理な物語を通して彼女を描けば、彼女の正義を果たし、彼女が真に無垢であったことを書くことができると気づいた。私は自分の気持ちに従い、彼女を想い、彼女への愛の甘い香りによって、彼女のまわりを包んでいた毒のある疑念や企みの空気を一新することができた。(pp. 502-3)

ペゼシュクザードは 1928年生まれですが、愛する人と一緒になれなかったら、おじいちゃんになってもこんな風に言わずにおれんのですよ。好きだという気持ちを捨てることは辛いんですよ。お金なんかなくても、好きな人と一緒になるのがよいですよ、ほんとに(涙)。

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