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来るべきアレフバーの世界

ペルシア文学・イラン文化研究と図書館の話

剽窃本を買ってしまったの巻

読書記録 ペルシア文学

私が研究対象としている11世紀のペルシア詩人、ナーセル・ホスロウの詩集には、刊本では2種類の定本が存在します。

一つは、テヘランで1896年に出版された石刷版に基づいて、ナスロッラー・タガヴィーやモハンマド・モイーンなどが校訂し、タギーザーデの詳細な解説を序文に付した校訂本(1925~1928年出版)で、もう一つは、ヒジュラ暦736年という古い写本に基づいてメフディー・モハッゲグ博士とミーノヴィー博士が校訂した版(1978年刊)です。

研究においては、この二つを用いるのが常識となっており、どちらかと言えば、より正確とされるモハッゲグ/ミーノヴィー版に依拠しつつ、タガヴィー版をも参照するというのがセオリーです。

タガヴィー版のほうは、様々なリプリントが様々な版元から出版されており、近年はコンピュータ組版による再編集本も多くありますが、内容は同じなので、書店で見かけても買わないことが多いのです。とはいえ、独自の創意工夫を施した版もあり、例えばジャアファル・シェアールによる版(1999~2000年刊)などは、脚注に語句解説がついており、勉強するときには便利です。

前回イランに行ったときには、アズィーゾッラー・アリーザーデという人の校訂した本を見つけました。これは持っていないと思って買って帰ったのですが、そのまま放置していました。

最近になって、ちょっと詩集を見る必要性があり、勤務先に参照用として置いていたこの本を見たのですが、この本、どんな写本に、あるいはどの校訂本に依拠したのかが、どこを読んでも書かれていません。

責任表示には「mosahheh」とあるから、アリーザーデ氏が校訂ないし編集したということを意味しているはずなのですが・・・・

序文には、この本は「『ナーセル・ホスロウ詩集』の本文を全く削除しなかったばかりでなく、5つの付録(補遺)までつけた、と自慢げに書かれています。その付録とは、詩索引、詩の韻律の種類の統計、固有名索引、語彙集、17年間の大学入試問題出題例で、最後のやつは結構面白く、こんな問題がでるのか、と関心しましたが、ネタ本である『ナーセル・ホスロウ詩集』がどの版であるのかすら書かれていません。

そこで、いつもの通り、グーグル先生にこの人のことを調べてもらいました。

すると、「盗作に反対する教授団」という団体(?)のホームページに、このアリーザーデ氏についての記事がありました。ゴラーム=ホセイン・サドリー=アフシャールという人の、「知的泥棒、近年の嘆かわしい現象」という記事です。(丸括弧内は引用者による)

元記事へのリンク

「知的泥棒、近年の嘆かわしい現象」

(前略)『アーサール・アル=バーキヤ』は、アブー・ライハーン・ビールーニー(10~11世紀)がアラビア語で執筆した、世界の様々な民族の歴史、暦、祭日や宗教的な日、また彼等の慣例や儀礼に関する最も重要な学術的作品の一つであり、その重要性の故に、英語やロシア語にも翻訳されている。この作品を、イランの教養人の一人であるアクバル・ダーナーセレシュトが、何年も前にペルシア語に翻訳した。勿論、この翻訳には問題が多くあり、現存するアラビア語の写本や刊本を参照しつつ、識者が翻訳しなおす必要があり、志ある人が現れて実際にそうしてくれることが待たれるのだが、残念なことに、そのような個人的な作業を行う代わりに、実名だか偽名だかわからないが、アズィーゾッラー・アリーザーデという、アースターネ・イェ・アシュラフィーイェ(ギーラーン州の街)に住んでいるらしい人物は、この翻訳を翻訳者の名前にも触れることなく、「校訂者アズィーゾッラー・アリーザーデ」の名の下に、1390年にフェルドウス出版社から(イラン暦)出版しているのである!この人物が、何にもとづいて、どのような方針で校訂を行ったのかは明らかにされていない。ただ彼が(自分のやったこととして)主張していることは、クルアーンの章句に母音符号をつけ、索引をつけ、350項目の難解な語彙と表現について語彙集を追加した、ということだけである。

このアリーザーデ氏が『アーサール・アル=バーキヤ』だけを校訂したと思うなら、それは間違いである。彼は多くの私たちの文学作品を自身の出版物の飾りに並べ立てているのである!ジュワイニーの『世界征服者の歴史』、『カーブースの書』、『幸福の錬金術』(ガザーリー)、『ナーセルの倫理書』(ナスィールッディーン・トゥースィー)、『下僕たちの大道』(ナジュムッディーン・ラーズィー)、『バイハクの歴史』、『鳥の言葉』(アッタール)、『神秘の宝庫』(ニザーミー)、『マルズバーンの書』、『真理の庭園』(サナーイー)、『四つの講話』(ニザーミー・アルーズィー)、『薔薇園』(サアディー)、『果樹園』(サアディー)、サアディーの詩集、『諸王の忠告』(ガザーリー)、『抜粋の基礎』(トゥースィー)、ナーセル・ホスロウの旅行記、ナーセル・ホスロウの詩集、『バルアミーの歴史』、マヌーチェフリー詩集、ハーフェズ詩集、ハーカーニー詩集、サーイェブ詩選集、『カリーラとディムナ』、ハサン・サッバーフの『七つの扉』など、これらすべてを、フェルドウス出版社が恥も臆面もなく出版している。

こんなことがあって良いのでしょうか。この記事は、「何という時代か!!」という嘆きで締めくくられています。イランでは古い本を別の版元がリプリントする例は多くありますが、元の編者や訳者の名前を伏せて自分の本にしてしまうなんて、盗作どころではない、まさに泥棒でしょう。

で、結局、この『ナーセル・ホスロウ詩集』の底本というか実体は、タガヴィー本だということが分かりました。この本を論文に使うのは恥ずかしいからやめましょう。

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