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来るべきアレフバーの世界

ペルシア文学・イラン文化研究と図書館の話

イランで南京虫に襲われたの巻(2)

(昨日の記事の続きです)

 

南京虫の恐怖

その部屋は、丁度隣の建物の陰で昼間もまったく陽の当たらない、2階の暗い部屋でした。真夏だったので、その点はさほど気になりませんでしたが、どことなく変な匂いのする部屋でした。しかし、せっかく移ったシングル部屋ですから、我慢することにしました。

部屋を移ってから5日目のこと。午前中、古書店で本を買い、重いので一旦ホテルに帰って昼飯を食べ、少しベッドでうとうとしていたときのことでした。 ふと見ると、ダニのような小さな赤い虫がシーツの上にいます。叩いて潰すと、ちょっとびっくりするほどの血が。まるで虫の体全体に私の血がつまっていたかのようです。

ダニよりは少し大きいので、南京虫か?と直感しました。昔、祖父が南京虫の話をしていたのを覚えていたからです。「夜、寝ようとするとな、天井から赤いのが壁をつたって下りてくるんよ。あれが痒うて痒うて・・・」 。

 

その次の日の日記に私はこう書いています。

8/13(木) 朝、 起きるとシーツに血がついている。虫が潰れたんだろう。

そのとき撮った自分の手足の写真です。

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 8/13日の刺された痕(脚)

 

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8/13日の刺された痕(手) 

 

しかし、そのときはあまり深刻には考えていませんでした。虫も小さいし、まあダニみたいなもんだ、と。殺虫剤スプレーを買ってきて、天井やベッドの周りにかけておき、その日の夜はフツーに寝ました。

 

次の日の日記:

8/14(金)  昨日、殺虫剤を撒いたのが効いたのか、よくわからないが、新たに刺されたところはなさそうだ。それにしてもかゆい。さわるとかゆくなる。(中略)(夜)まだところどころがかゆい。昨日かゆかったところとは別のところがかゆい。まだ虫がいるのか?

実はこのとき、「まだいる」なんてものではなかったんですよ。因に、南京虫はペルシア語ではサース(Sās)と言います。南京虫はチクっとサース!はい、覚えやすいですね。

 

で、こいつに刺されるときは眠っているので分からないんですが、多分痛いんですよ。当時の日記にはこうあります。

8/15(土) モルダード24日 午前1時過ぎ、寝苦しくて目が覚め、電気をつけると、壁に南京虫が。シャツの上にも、そして、枕の上に幼虫。ベッドのすそをめくると3,4匹成虫がいる。悪夢。

そのときの恐怖といったら、今でも思い出すだけで眠るのが恐ろしくなりそうです。日本語版Wikipediaの写真を見ると分かりますが、私がそのとき見たのは、もっと黒っぽくなっていました。大きさとしては、恐怖心で大きく見えたのかもしれませんが、テントウムシくら い。テントウムシよりも平べったいのですが、それが4,5匹、うろちょろしている感じです。動きは遅いです。それがさっきまで自分の血を吸っていたかと思うと、恐ろしさで頭が真っ白になりました。

襲われているときの寝苦しさといったら、悪夢にうなされて目が覚めるような感じです。そして起きたら本当の悪夢です。虫に襲われるなんてホラー映画ですよ。南京虫は動きが遅いので潰されるのを恐れ、一度刺すと体から離れるようです。そしてまた近寄ってきて刺すという。ホント、嫌がらせです。

 ためしにスリッパで絨毯の上の一匹をたたき殺すと、血の染みを残して簡単に死んでくれました。電気を付けると、まるでイケナイことをしていた男女みたいに、バツの悪そうな動きでベッドの下に帰ろうとしています。

 

さて、どうするか。ここでフロントに電話すれば、部屋を変えてくれるか、他の部屋が空いていなければロビーで寝るとか、とにかく部屋を移動することになる。しかし、昼間Wikipediaの記事で南京虫の特性について読んでいたので、荷物と一緒に南京虫がついてくるかも知れないと思いました。そうすれば部屋を変えたところで被害が拡大するだけになってしまいます。それだけは避けたい。

 

そこで、まずスーツケースやクローゼットの中の着替え、買い集めた本などを全て虫がついていないか点検の上、殺虫剤をかけつつまとめました。虫が入り込まないようにスーツケースはきちんと閉じ、その他の荷物もビニール袋にいれて密封しました。それからフロントへ行き、 刺された腕を見せて、虫がいるから部屋を変えてくれと訴えました。

 

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 8/15日の刺された痕

 

最初に部屋を確認しに来たボーイは、まだベッドの脇でうろうろしている虫(のろい!)を見て、かなり驚いていました。

当然ながら別の部屋に移動することになりましたが、そのとき既に朝の5時になっていました。前回の投稿でホテル事情について書きましたが、シングルの部屋は空いてるのに隠してるんですよ。絶対。あっさりと3階のもっと日当たりの良いシングルに変えてくれました。

新しい部屋に移ったら、とりあえず荷物全部に再度殺虫剤をかけ、ホテルには申し訳ないが、天井と壁とベッドの下に思い切り殺虫剤をスプレーし、びくびくしながらシャワーを浴びてベッドに入りました。が、また虫が襲ってくるのではという恐怖で、眠いのに眠ることができない。南京虫は明るいうちは出てこないようなので、電気をつけたまま、ウトウトするだけ。

 

朝、朝食を食べてラウンジでネットをしていると、ハンサムだけどいつも厳しい表情で監督しているマネージャーが私のところにきました。「・・・どこか、変わったところへ行きませんでした?こんなことは今までなかったので・・・」

 

要するに、責任逃れを決め込もうということでしょう。ホテルに始めから南京虫がいたのではない、お前が連れてきたのだろうと。

そんな訳ねえよ、一匹や二匹リュックに入れて連れてきたからって、こんなことになるはずがないし、あの部屋で前にも南京虫が出たに違いない、変な匂いだったし、と思いながら、「いや・・・心当りないですね」とこっちもしらばっくれる。

 

実際、このときに至ってもまだホテルを変えようとは思いませんでした。それほど、他のホテルより使い勝手が良いと自分には思えたからです。いざ訴訟になったところで負ける筈はないという根拠のない自信があったので、私は堂々としていることにしましたが、逆にホテルに対して責任を追及することもしませんでした。本当のところ、どこから南京虫が来たのかは分かりませんし。

しかし、あの部屋に元々南京虫がいたとすると、なぜ5日も経ってから現れたのか。それとも刺されていたのに気付かなかったのか?そこが分かりません。

そういえば、私がまだツインの部屋にいたとき、東南アジア系の若い夫婦(ハネムーンか?)が、チェックアウトしながら相当怒って文句を言っていたことがありました。あれは南京虫が出て怒っていたのでは?

とか、

虫が出る前にチェックアウトしていったアフリカ系のサッカー選手(らしい)、あいつが連れてきたのでは?とか、虫が出る前の日に向かいの部屋に入った中国人が連れてきたのか?「南京」虫というぐらいだし。とか、色んなことを考えました。

 

その日の午後、国営スーパーに食料を買い出しに行ったついでに、衣類の防虫剤を買ってきました。ベッドの下や、スーツケース、リュックの中、クローゼットの中などに入れて、絶対に南京虫を日本に持って帰らないということだけを考えました。次の日も、電気をつけたまま寝ました。

 

どうやら虫はついてこなかったようで、ベッドの周りや天井に殺虫剤を吹きつけて、少しずつ眠れるようになりましたが、南京虫に刺されたところの痒みが中々治まりません。日に日にかゆくなるようです。

 

ムヒを持ってくれば良かった、とこのとき思いました。薬屋に行って、 虫刺されの薬をくれというと、「アフター・バイト」というローションタイプの薬をくれました。

 

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日本に帰国してから、もし荷物に南京虫の卵でもついていたらどうしようと不安に思い(しつこいw)、結局薬局でトコジラミにも効くアースレッドを沢山買い、部屋に入るなりスーツケースを開け、アースレッドを噴射させて外に出ました。

 

その後数日間は、夜眠るのが恐ろしく、電気をつけて寝ました。ふとウトウトしたときに、あのときの悪夢が蘇ってきます。

 

今でも、小さな虫を見たり、朝起きて虫に刺されたような痒みがあったりすると、「南京虫か?」と過剰反応してしまいます。

 

南京虫は港や空港で他の荷物から移ってくることがあるようです。皆さん、海外に行く時はスーツケースや手荷物に殺虫剤をスプレーし、中には防虫剤を入れておきましょう。どこであの恐怖の虫がくっついてくるか分かったもんじゃありませんから。

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